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松江地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1998年9月30日

原告

藤本良夫

外五名

右原告ら訴訟代理人弁護士

高野孝治

被告

池田高明

株式会社隠岐振興

右代表者代表取締役

岡田昌平

被告

五箇村総合振興株式会社

右代表者代表取締役

村上勇二

右被告ら訴訟代理人弁護士

中村寿夫

大野敏之

主文

一  原告らの被告池田高明及び被告株式会社隠岐振興に対する請求のうち、五箇村に対し連帯して金六八五万七二七一円の支払を求める部分を棄却し、隠岐島町村組合に対し連帯して金八五九万九八八五円の支払を求める部分を却下する。

二  原告らの被告池田高明に対するその余の請求及び被告五箇村総合振興株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一1  (主位的請求)

被告池田高明及び被告株式会社隠岐振興は、五箇村に対し、連帯して金六八五万七二七一円を支払え。

2  (予備的請求)

被告池田高明及び被告株式会社隠岐振興は、隠岐島町村組合に対し、連帯して金八五九万九八八五円を支払え。

二  被告池田高明及び被告五箇村総合振興株式会社は、五箇村に対し、連帯して金七二六万七八一二円を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、五箇村の住民である原告らが、五箇村が第三セクターである被告株式会社隠岐振興及び被告五箇村総合振興株式会社へ同村の職員を派遣したことは公務員の職務専念義務に違反する措置であり、その人件費を支出したことは違法な公金の支出であるから、五箇村は被告らの共同不法行為により右人件費相当額の損害を被った等と主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、被告らに対し、五箇村等に代位して右損害の賠償を請求した事案である。

二  前提事実(証拠の摘示のないものは当事者間に争いがない)

1  当事者等

(一) 原告らは、五箇村の住民である。

(二) 被告池田高明(以下「被告池田」という。)は、昭和六三年一〇月二一日から平成八年一〇月二〇日まで五箇村の村長の地位にあり、平成七年四月一日当時、隠岐島町村組合の管理者であった。また、同被告は、平成七年二月二八日から平成八年四月一二日まで被告五箇村総合振興株式会社(以下「被告五箇村総合振興」という。)の代表取締役であり、平成七年四月一日当時、被告株式会社隠岐振興(以下「被告隠岐振興」という。また、被告五箇村総合振興及び被告隠岐振興をまとめて「被告会社ら」ともいう。)の取締役であった。(被告池田及び弁論の全趣旨)

(三) 被告隠岐振興は、平成三年一〇月一一日、隠岐地域の西郷町、布施村、五箇村、都万村、西ノ島町、海士町及び知夫村の七町村(以下「隠岐島七町村」という。)、隠岐汽船株式会社、隠岐島漁業協同組合連合会、株式会社山陰合同銀行、株式会社島根銀行並びに島根県を株主として設立された株式会社(第三セクター)であり、超高速船「レインボー」を隠岐汽船株式会社にリースする事業を中心に、レンタカー業者に対するレンタカーのリース事業、リネンサプライ関連のリース事業、宿泊及び観光施設である隠岐ポートプラザの管理受託事業等を営んでいる。(乙一、二及び弁論の全趣旨)

(四) 被告五箇村総合振興は、平成四年一二月二一日、五箇村、五箇村漁業協同組合及び五箇村村民を株主として設立された株式会社(第三セクター)であり、定置網漁業のほか、平成六年七月から温泉施設である隠岐温泉GOKA、平成七年二月から観光施設である五箇村創生館、平成七年四月から宿泊施設であるホテル海音里及びログハウスの各管理受託業務を営んでいる。(乙三、四及び弁論の全趣旨)

(五) 隠岐島町村組合は、隠岐島七町村をもって組織された地方公共団体の組合である。(乙九)

2  五箇村職員の被告会社らへの派遣(以下「本件職員派遣」という。)

(一) 被告隠岐振興への派遣

五箇村は、平成七年四月一日付で、同村職員の金崎慎二(以下「金崎」という。)を二年間の期限を付して研修として隠岐島町村組合に派遣し、隠岐島町村組合は、同日付で、金崎を一年間の期限を付して被告隠岐振興に派遣した。(乙一〇、一二及び弁論の全趣旨)

(二) 被告五箇村総合振興への派遣

五箇村は、平成七年四月一日付で、同村職員の滝本修二(以下「滝本」という。)を一年間の期限を付して研修として被告五箇村総合振興に派遣した。(乙一六及び弁論の全趣旨)

3  公金の支出(以下「本件公金支出」という。)

(一) 当時の五箇村村長被告池田は、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの間の金崎の給料・諸手当等として八五九万九八八五円を支出した。(乙一〇、一二ないし一四及び弁論の全趣旨)

(二) 当時の五箇村村長被告池田は、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までの間の滝本の給料・諸手当等として九一五万九三〇三円を支出した。(乙一六、一七及び弁論の全趣旨)

4  監査請求

原告らは、平成八年三月一九日、地方自治法二四二条一項に基づき、五箇村監査委員に対し、本件職員派遣は公務員の職務専念義務に違反する措置であり、その人件費を支出することは違法な公金の支出であるとして、右公金支出の停止、既払の人件費相当額の返還等の措置を講ずべきことを求める監査請求をなしたところ、五箇村監査委員は原告らに対し、同年五月一七日付書面をもって、右監査請求には理由がない旨の通知をした。(弁論の全趣旨)

三  争点

1  本件公金支出の違法性

(一) 原告らの主張

(1) 被告会社らの事業内容と五箇村職員としての職務専念義務

① 地方公共団体の職員は、地方公務員法三五条により、その本来の職務に専念すべき義務が定められているから、地方公共団体がその職員に対して右職務専念義務に違反する行動をさせる措置を採ることは右法律の規定に違反する。すなわち、地方公共団体が当該地方公共団体以外の法人その他の団体へ職員を派遣し、その業務に従事させることは、法律に特別の定めがある場合を除いては、職務専念義務に違反しないと認められる場合か、若しくは予め職務専念義務違反の問題が生じないような措置が採られた場合にのみ許される。

ところが、本件職員の派遣先となった被告会社らはいずれも営利を目的とする株式会社であり、その業務は、地方公共の秩序維持、住民の安全、健康及び福祉を保持すること等を目的とする地方公共団体の事務(地方自治法二条)とは性質を異にしており、このような被告会杜らに五箇村が同村職員を派遣するに当たっては、当該職員について職務専念義務違反の問題が生じないように予め派遣期間中休職にしたり、職務専念義務を免除する等の措置を採るべきであるにもかかわらず、五箇村はそのような措置を採ることなく本件職員派遣を実施し、被告会社らの業務にそれぞれ従事させ、その人件費を負担し支出した。

よって、本件職員派遣は地方公務員の職務専念義務を定めた地方公務員法三五条に違反し、本件公金支出は地方自治法二〇四条の二に違反し、地方自治法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう違法な公金の支出に当たる。

② 被告らは、被告会社らの事業が公益性を有するため、本件職員が被告会社らの職務に就くことは五箇村の行政事務に就くことと等しく、職務専念義務に違反しないと主張する。

しかし、株式会社と地方公共団体とはその目的、存立基盤、組織、運営、社会性につき基本的な相違があり、私企業と公共団体との関係を公私混同のないよう明確にしておくことは、憲法、地方自治法の趣意であり、民主主義にとって重要な事柄である。

第三セクターといえども株式会社である以上商法の適用を受ける営利企業であるという本質が変わるわけではなく、第三セクターの業務の公益性は、私企業のもつ公益性と本質的な違いはない。また、被告らは、被告会社らの株主、役員の多くは、隠岐島町村長、村議会議員であり、被告会社らの活動は公的に統制されているというが、公的な統制手段といっても、所詮商法に基づく株主及び取締役としての権利行使以外の何者でもない。

特に被告五箇村総合振興は、定置網漁業、ホテル、温泉施設の管理・運営を業とする株式会社であり、その業務内容も公益性が大きいとは到底いえない。

(2) 派遣方法の適法性

① 金崎の被告隠岐振興への派遣

被告らの主張によれば、五箇村が研修目的で金崎を隠岐島町村組合に派遣し、同組合は金崎を受け入れたのと同日付で同人を職務専念義務を免除したうえ被告隠岐振興に派遣したことになるが、金崎の隠岐島町村組合への派遣は形式上のものであって、実質は被告隠岐振興へ派遣する目的で行われたものといわざるを得ない。

それは置くとしても、地方公務員法三九条は、職員の研修目的を「その勤務能率の発揮及び増進のため」と定めているところ、金崎の隠岐島町村組合又は被告隠岐振興への派遣にはこのような研修目的は存在しない。また、被告隠岐振興が、隠岐島町村組合にとって「業務の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体」(職務に専念する義務の特例に関する規則二条三号)であれば、隠岐島町村組合の職員の職務専念義務を免除することができるが、被告隠岐振興は当該団体に該当しない。さらに、隠岐町村組合が金崎の職務専念義務を免除しても同人の五箇村職員としての職務専念義務は免除されることにはならない。

そうすると、金崎の被告隠岐振興又は隠岐島町村組合への派遣は、手続的に明らかに違法である。

② 滝本の被告五箇村総合振興への派遣

被告五箇村総合振興は、定置網漁業、ホテル、温泉施設の経営等を目的とする私企業であり、滝本は、右ホテルの支配人としての業務に従事していたものであるから、滝本の被告五箇村総合振興への派遣が地方公共団体の職員の研修として是認されるものではない。また、滝本は、異なる地方公共団体の職を兼ねたのではなく、私企業の業務を兼ねたのであり、兼職が許される余地はない。

(二) 被告らの主張

(1) 被告会社らの事業内容と五箇村職員としての職務専念義務

① 第三セクターへの職員派遣

地方公共団体は、地方自治の担い手として、その地域の自然環境、生活環境、産業基盤を整備し、地域住民の生活の向上及び活動の活性化を図り、望ましい地域社会が形成されるよう努める責務を有している。このような責務を達成するためには、民間活力を導入し活用することが必要であるが、同時に地方公共団体には、民間資本の営利性に対しては公的な統制・監督を加え、低収益性に対しては保護・助成を図ることが要請されている。そこで近年、地方公共団体においては、第三セクターを設立して地域振興、地域活性化のための事業に取り組む事例が増加している。地方公共団体の第三セクターに対する職員派遣もこのような公益性の観点から基礎づけられる。

② 被告会社らの事業の公益性と行政目的との関連性

ア 被告隠岐振興

被告隠岐振興は、隠岐地方の過疎化、高齢化が一層深刻な状態になる中で、超高速船の導入による隠岐・本土間の高速交通網の整備、それを契機とした雇用機会の創出、宿泊、観光レクレーション施設の整備・促進等を目的として設立された第三セクターであって、過疎地域活性化特別措置法に基づく地方債(以下「過疎債」という。)を最大限活用し、かつ迅速な設立と機動的な事業展開を期して株式会社形態が採用されたものであり、被告隠岐振興の各種事業は、いずれも隠岐島七町村の行政目的の実現に他ならない。

イ 被告五箇村総合振興

被告五箇村総合振興は、五箇村漁業協同組合が営んでいた定置網漁業の収益性が悪化し、同組合がこれを単独で維持することが困難になる中で、定置網漁業の継続による水産振興に加え、宿泊、観光施設等の整備、促進等による観光産業の振興を目的として設立された第三セクターであり、五箇村の行政目的に合致し、行政目的との間に密接な関連性が認められる。

③ 本件職員派遣の必要性・合理性

ア 金崎の被告隠岐振興への派遣

被告隠岐振興が過疎債等の公的資金を導入するに当たっては行政機関の全面的な協力を得ることが必要不可欠であり、そのため、被告隠岐振興の職員は行政制度を理解し、行政経験の豊富な者である必要があったことから、被告隠岐振興にとって、二名の男性職員については島根県と隠岐島七町村から中堅の職員が派遣されることが望ましかった。島根県及び隠岐島七町村にとっても職員を派遣してこれらの事業を担わせることは職員の資質を向上させることにつながり極めて有益であり、また、派遣される職員にとっても過疎対策について実践的な経験を積むことは有益であった。そうすると、仮に派遣手続に違法があったとしても、金崎の派遣は職務専念義務に違反しない。すなわち、金崎に被告隠岐振興の業務を経験させることは同人の資質向上につながり研修の趣旨から外れるものではないこと、被告隠岐振興は五箇村の「業務の運営上その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体」であることは明らかであるので、五箇村の職員の職務に専念する義務の特例に関する条例第二条三号及び職務に専念する義務の特例に関する規則二条二号により、金崎の五箇村職員としての職務専念義務を免除したうえで派遣することも本来可能であったこと、金崎の派遣期間が二年間と定められていたことを考え併せると、五箇村村長に裁量権の逸脱はなく、金崎についての本件職員派遣は地方公務員法三五条の職務専念義務に違反しない。

イ 滝本の被告五箇村総合振興への派遣

被告五箇村総合振興は、観光施設の管理受託を主たる業務としており、しかも早急に観光に詳しい人材を確保する必要に迫られていたため、観光行政に詳しい五箇村の職員を派遣してもらう必要があった。五箇村としても、将来の観光行政推進のための人材を養成できるという利点があり、派遣される職員にとっても観光施設の管理運営の経験を積むことは有益であった。そうすると、仮に派遣手続に違法があったとしても、滝本の派遣は職務専念義務に違反しない。すなわち、被告五箇村総合振興の主たる業務が五箇村が所有する観光施設等の管理受託業務であり、被告五箇村総合振興は五箇村の「業務の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体」であることは明らかであるので、五箇村の職員の職務に専念する義務の特例に関する条例二条三号、職務に専念する義務の特例に関する規則二条二号により、滝本の職務専念義務を免除したうえで派遣することも本来可能であったこと、滝本の派遣期間が二年と定められていたことを考え併せると、五箇村村長に裁量権の逸脱はなく、滝本についての本件職員派遣は地方公務員法三五条の職務専念義務に違反しない。

(2) 派遣方法の適法性

① 金崎の被告隠岐振興への派遣

ア 派遣の経過

被告隠岐振興は、従前西郷町から派遣されていた職員の派遣期限が満了することから、隠岐島町村会に対し、職員の派遣を要請した。そこで、後任職員は隠岐島町村組合から派遣されることとなり、これを受けて隠岐島町村組合は、職員の定数を一名増員したうえ、平成七年四月一日付で斎賀光成(以下「斎賀」という。)を採用した。ところが、被告隠岐振興は、西郷町から派遣されていた前記職員に代わることのできる相当の経験を有する中堅職員を希望したため、隠岐島町村組合から適任者を派遣することができず、隠岐島町村組合と五箇村との人事交流により、斎賀を五箇村へ派遣し、五箇村職員の金崎を隠岐島町村組合が受け入れ、同時に隠岐島町村組合から金崎を被告隠岐振興へ派遣することとなった。

イ その際、五箇村による金崎の隠岐島町村組合への派遣及び斎賀の五箇村への派遣は、任命権者の職務命令による研修等を目的とする場合の兼職による派遣とした。

このような地方公共団体における人事交流は、柔軟で幅広い視野を持った人材の育成に有効であるとともに、地方公共団体の相互理解や専門的知識の相互活用に資するものであって、本件の人事交流も、金崎及び斎賀の資質向上を目的とした研修のための人事交流である。

ウ 隠岐島町村組合による金崎の被告隠岐振興への派遣は、隠岐島町村組合の職務に専念する義務の特例に関する条例二条五号及び職務に専念する義務の特例に関する規則二条三号の「組合業務の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体の役員等の地位を兼ねることが特に必要と認められる団体の役員等の地位を兼ねることが特に必要と認められる団体の役員等の地位を兼ね、その事務を行う場合」に該当するものとし、職務専念義務免除による派遣とした。

金崎の被告隠岐振興への派遣は、主に超高速船「レインボー」の導入とリース事業の運営に当たらせるためであるが、隠岐島町村組合の業務内容には「超高速船の運行支援に関すること」が揚げられており(隠岐島町村組合規約第三条一〇号)、現実にも隠岐島町村組合を構成する隠岐島七町村が被告隠岐振興に対し多額の出資及び補助金の支出を行っていて超高速船の運行事業を支援しなければならない実質的な理由もあるので、被告隠岐振興が、前記規則二条三号の「組合業務の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体」に該当することは明らかである。隠岐島町村組合としては、金崎の五箇村職員としての身分、処遇を保障する必要から、同人を一旦退職させたり休職とする方法は採用しなかった。

② 滝本の被告五箇村総合振興への派遣

滝本の被告五箇村総合振興への派遣は、任命権者の職務命令による研修等を目的とする場合の兼職による派遣とした。

このような方法を採用したのは、派遣の目的が五箇村にとっては人材養成、滝本にとっては観光行政のための研修であって、滝本に対して五箇村職員としての身分を保障する必要もあったからである。

(3) 右に述べた各事情に照らせば、本件職員派遣は地方公務員法三五条の職務専念義務に違反しないし、本件公金支出も適法である。

2  損害

(一) 原告らの主張

(1) 被告らは、共謀の上、金崎及び滝本をその職務専念義務に違反することを知りながら被告会社らに派遣させ、五箇村に同人らに対する人件費を違法に支給させたものであり、これによって五箇村は右人件費相当額の損害を被った。したがって、五箇村は被告らに対し右人件費相当額の損害賠償請求権を有している。

(2) 五箇村の損害を考える際に特別交付税が増額されたことを考慮するのは相当でない。また、特別交付税の交付は損害の填補関係にない。

(二) 被告らの主張

仮に本件公金支出が違法であるとしても、これにより五箇村の被った損害は次のとおり回復されている。

(1) 隠岐島町村組合は斎賀の人件費を負担し、五箇村は金崎の人件費を負担しているが、斎賀の平成七年度の人件費は三六八万四二五六円、金崎の平成七年度の人件費は八五九万九八八五円であって、その差額は四九一万五六二九円である。

ところで、五箇村が金崎を隠岐島町村組合に派遣したことにより、島根県から五箇村に平成八年三月に交付される特別交付税が派遣しない場合に比較して四〇〇万円程度加算されることが見込まれたため、五箇村は、平成八年二月二六日、隠岐島町村組合に対し、人件費差額四九一万五六二九円から四〇〇万円を控除した九一万五六二九円を人事交流職員差額人件費負担金として請求し、隠岐島町村組合は、右金額を平成八年四月五日、五箇村に支払った。

そして、島根県は、従前から隠岐島七町村が被告隠岐振興に職員を派遣した場合には人件費のうち年間四〇〇万円の範囲で特別交付税を派遣元の町村に対して措置しており、五箇村が隠岐島町村組合との人事交流を介して金崎を被告隠岐振興に派遣することになった際にも、五箇村に対して人件費差額のうち年間四〇〇万円の範囲で措置することを約束し、現に実行した。

(2) 五箇村の負担した滝本の人件費九一五万九三〇三円については、五箇村の平成八年三月一三日の定例議会において、被告五箇村総合振興からその全額が返還されるものとして予算計上がなされ、平成八年三月二八日、その全額が五箇村に支払われた。

3  被告池田高明及び被告株式会社隠岐振興に対する予備的請求について

(右被告らの主張)

右予備的請求については住民監査請求がなされていないので、不適法として却下されるべきである。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  前記前提事実、証拠(乙一ないし一二、一六、二五、二六、証人富田幹彦、被告池田、被告隠岐振興代表者岡田昌平)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(一) 被告隠岐振興について

(1) 被告隠岐振興は、過疎化、高齢化の深刻化する隠岐地方の振興と活性化のため、超高速船の導入による隠岐・本土間の高速交通網の整備、雇用機会の創出、宿泊、観光レクレーション施設の整備・促進等が行政課題となる中で、これらの事業の効果的な展開とリスクの軽減及び過疎債等の公的資金の最大限の活用を目的として、隠岐島七町村、隠岐汽船株式会社、隠岐島漁業協同組合連合会、株式会社山陰合同銀行、株式会社島根銀行及び島根県を株主として平成三年一〇月一一日に設立された株式会社であって、資本金四億六二〇〇万円のうち隠岐島七町村の出資額は各五〇〇〇万円ずつ合計三億五〇〇〇万円(その財源はすべて過疎債である)、島根県の出資額は五〇〇〇万円であり、隠岐島七町村の出資比率は約七六パーセント、島根県を併せた出資比率は約八七パーセントである。取締役は隠岐島七町村長及び島根県職員二名で構成されている。

(2) 被告隠岐振興の営む事業のうち超高速船のリース事業は、超高速船「レインボー」を隠岐汽船株式会社に低料金でリースする事業であり、レンタカーのリース事業は、レンタカーを低料金で地元のレンタカー業者にリースする事業であり、リネンサプライ関連のリース事業は、リネン関係機器を低料金で地元のリネンサプライ業者にリースする事業であって、いずれも民間企業単独では採算の面で維持が困難とみられていた事業でありながら、隠岐地方の振興と活性化のために地元住民や観光関係者の間で要望の強かった事業である。隠岐ポートプラザの管理受託業務は、西郷町が所有する隠岐ポートプラザの管理運営を直接西郷町が行う予定がなかったことから、同被告が地方自治法二四四条の二第三項及び同法施行令一七三条の三により受託した業務である。

そして、被告隠岐振興の中心事業は超高速船のリース事業であり、そのため、同被告は超高速船「レインボー」を建造したが、その建造資金一八億四五〇〇万円余りのうち一七億七八〇万円が隠岐島七町村及び島根県からの補助金であり(隠岐島七町村からの補助金一四億七一八〇万円のうち九億二一八〇万円は過疎債を、残り五億五〇〇〇万円は隠岐島七町村のふるさと創生資金をそれぞれ財源としている。)、同被告はこれを月額一〇〇万円という極めて低廉なリース料で隠岐汽船株式会社にリースしている。

(二) 被告五箇村総合振興について

(1) 被告五箇村総合振興は、過疎化、高齢化の特に深刻な五箇村において、定置網漁業の継続、宿泊・観光施設等の整備、促進等による水産業及び観光産業の振興と活性化を目的として、五箇村、五箇村漁業協同組合及び五箇村村民を株主として平成四年一二月二一日に設立された株式会社であって、資本金一億一三〇〇万円のうち五箇村の出資額は一億三〇万円であり、出資比率は約八九パーセントである。取締役も、五箇村の村長、村議会議員、五箇村漁業協同組合役員及び五箇村商工会役員らで構成されている。

(2) 被告五箇村総合振興の営む定置網漁業は、従来五箇村漁業協同組合が営んでいた定置網漁業の収益性が悪化し、同組合単独ではこれを維持することが困難となる中で、定置網漁業は観光資源としての要素も有することから、五箇村の水産業及び観光産業の振興と活性化のため同被告が経営することとしたものであり、その他の観光施設等の管理受託業務は、五箇村が所有している観光施設等の管理運営をより効率的で発展性のあるものにするために、同被告が地方自治法二四四条の二第三項及び同法施行令第一七三条の三により受託した業務である。

(三) 本件職員派遣

(1) 金崎の被告隠岐振興への派遣

① 被告隠岐振興の従業員三名のうち二名は、設立当初から島根県及び西郷町から派遣された職員であった。これは、被告隠岐振興が隠岐地方の振興及び活性化という広域的な行政課題に継続的に取り組むことを事業目的としており、そのため多額の公的資金を導入しかつ運用していることなどから、従業員についても行政制度を理解した公務員が適当と考えられたためである。

被告隠岐振興は、西郷町からの派遣職員が平成七年三月三一日をもって西郷町に帰任することとなったので、隠岐島町村会に対し、相当の経験年数と実績を有する中堅職員を引き続き派遣するよう要請した。これを受けて隠岐島町村会が開かれ、隠岐島町村組合の事業の中に超高速船の運行支援の事業が含まれていること及び人件費の広域的な負担の観点から、後任職員は隠岐島町村組合から派遣することとなった。隠岐島町村組合としては、職員を派遣するためには定員を増員して対応することが必要となり、平成七年二月二〇日の定例議会において、職員の定数を一名増員する決議を行い、これを受けて、平成七年四月一日付で斎賀を採用した。ところが、隠岐島町村組合に前記の西郷町の職員から引き継いで職務を行える適当な職務経験者がいなかったため、隠岐島町村組合と五箇村との人事交流により、金崎を隠岐島町村組合が受け入れ、斎賀を五箇村へ派遣し、隠岐島町村組合が金崎を被告隠岐振興へ派遣することとなった。

②ア 五箇村と隠岐島町村組合は、平成七年四月一日付各「職員の派遣に関する協定書」をもって、五箇村が金崎を同村職員の身分のまま隠岐島町村組合に派遣すること、派遣期間は平成七年四月一日から平成九年三月三一日までとすること、金崎の給料及び手当は五箇村が支給すること等を内容とする協定及び隠岐島町村組合が斎賀を同組合職員の身分のまま五箇村に派遣すること、派遣期間は平成七年四月一日から平成九年三月三一日までとすること、斎賀の給料及び手当は隠岐島町村組合が支給すること等を内容とする協定を締結し、これらに基づき、五箇村は平成七年四月一日付で金崎を隠岐島町村組合に派遣し、隠岐島町村組合は同日付で斎賀を五箇村に派遣した。

金崎及び斎賀の右各派遣は、いずれも任命権者の職務命令による兼職による派遣であり、その目的は同人らの研修とされた。

イ 次に、隠岐島町村組合と被告隠岐振興は、平成七年四月一日付協定書をもって、隠岐島町村組合が金崎を同人が同組合において保有する身分のまま被告隠岐振興に派遣すること、派遣期間は平成七年四月一日から平成八年三月三一日までとすること、金崎の給与等は隠岐島町村組合が支給すること等を内容とする協定を締結し、これに基づき、隠岐島町村組合は、金崎の職務専念義務を免除したうえ、平成七年四月一日付で同人を被告隠岐振興に派遣した。

隠岐島町村組合は、同組合の業務内容に「超高速船の運行支援に関すること」が掲げられている(同組合規約第三条一〇号)ことから、被告隠岐振興が同組合の職務に専念する義務の特例に関する条例第二条五号及び職務に専念する義務の特例に関する規則第二条三号の「組合業務の運営上、その地位を兼ねることが特に必要と認められる団体」に該当すると解釈し、金崎の職務専念義務を免除した。

右派遣先において金崎は、右派遣期間中、営業課長として対外的な交渉、企画、町村との折衝等の業務全般に従事した。

(2) 滝本の被告五箇村総合振興への派遣

① 被告五箇村総合振興は、当初自社従業員で定置網漁業を営んでおり、平成七年四月一日に開業予定のホテル海音里の支配人についても自社採用の従業員を当てる予定であったが、右ホテルの開業時までに適任者を採用することができなかったため、早急に人材を確保する必要から、五箇村に対し観光に詳しい人材を派遣するよう要請した。

② そこで五箇村は、当時五箇村観光対策室の室長であった滝本を派遣することとし、被告五箇村総合振興との間で、平成七年三月三一日付「職員の派遣に関する協定書」をもって、五箇村が滝本を同村職員の身分のまま被告五箇村総合振興に派遣すること、派遣期間は平成七年四月一日から平成八年三月三一日までとすること、滝本の給料及び手当は五箇村が支給すること等を内容とする協定を締結し、これに基づき五箇村は平成七年四月一日付で滝本を被告五箇村総合振興に派遣した。

滝本の被告五箇村総合振興への派遣は、任命権者の職務命令による兼職による派遣であり、その目的は同人の研修とされた。右派遣先において滝本は、右派遣期間中、ホテル海音里の支配人としての業務に従事した。

2  ところで、地方公共団体の職員が職務専念義務(地方公務員法三五条)を尽くすのは当然であり、かつ最も重要な職責であって、地方公共団体の側も職員に職務専念義務に違反する行為をさせるような措置を取るべきでないという拘束を課されていると解される。したがって、地方公共団体が当該地方公共団体以外の法人その他の団体へ職員を派遣しその業務に従事させるには、法律又は条例に特別の定めがある場合を除いては、予め当該職員について職務専念義務に違反しないような措置を採ることが必要であり、右のような措置を採ることなく単なる職務命令により職員を他の法人等に派遣することは、派遣先の法人等の事務が当該地方公共団体の事務と同一視し得るものであるなど職務専念義務に反しないとみられる特段の事情がない限り、地方公務員法三五条に違反する違法な措置というべきである。

これを本件についてみると、次のとおりである。

(一) 金崎の被告隠岐振興への派遣について

前記認定のとおり、金崎は、五箇村村長の職務命令により、五箇村職員の身分を保有したままこれに伴う職務専念義務の免除を受けることなく隠岐島町村組合に派遣され、次いで隠岐島町村組合管理者の職務命令により、隠岐島町村組合における身分を保有したまま職務専念義務の免除を受けたうえで被告隠岐振興に派遣されたものである。ところで、兼職とは、ある職員がその職を保有したまま他の職に任命されることをいうものであるから、隠岐島町村組合に派遣された金崎は、同組合において五箇村職員としての身分と隠岐島町村組合職員としての身分を併有することとなる。そして、隠岐島町村組合管理者による職務専念義務の免除の対象が隠岐島町村組合の職員としてのそれに限られることは明らかであるから、金崎は、五箇村職員としての身分及びこれに伴う職務専念義務を保有したまま五箇村村長及び隠岐島町村組合管理者の各職務命令により被告隠岐振興に派遣されたものと認められる。

ところで、前記認定にかかる被告隠岐振興の設立目的、事業内容、公的資金の導入及び運用状況、株主及び役員の構成等に鑑みると、被告隠岐振興の公益性及び行政目的との関連性は相当高く、五箇村がその職員を同被告に派遣する必要性、合理性も相当程度認めることができる。しかし、被告隠岐振興は、本質的には商法上の株式会社組織をとる私企業であるし、その事業である超高速船「レインボー」のリース事業、レンタカーのリース事業及びリネンサプライ関連のリース事業等は、地方公共の秩序維持、住民の安全、健康及び福祉を保持すること等を目的として通常行われる地方公共団体の事務(地方自治法二条)とは基本的に性質を異にしており、これを五箇村の事務と同一視することは到底できない。

そして、前記認定によれば、右五箇村村長及び隠岐島町村組合管理者の各職務命令は、金崎を被告隠岐振興に派遣することを目的として一体としてなされたものであり、それをも併せ考えると、五箇村村長及び隠岐島町村組合管理者の金崎を五箇村職員としての身分を保有させたままその職務専念義務を免除することなく被告隠岐振興に派遣した一連の措置は、全体として地方公務員法三五条に違反する違法な措置というべきである。

(二) 滝本の被告五箇村総合振興への派遣について

五箇村村長が職務命令により滝本を五箇村職員としての身分を保有させたまま職務専念義務を免除することなく被告五箇村総合振興に派遣したことは、前記認定のとおりである。

ところで、前記認定にかかる被告五箇村総合振興の設立目的、事業内容、株主及び役員の構成等に鑑みると、被告五箇村総合振興の事業の公益性及び行政目的との関連性を認めることができ、五箇村がその職員を同被告に派遣する必要性、合理性も認められないわけではない。しかし、被告五箇村総合振興は、本質的には商法上の株式会社組織をとる私企業であって、その事業である定置網漁業やホテル経営等の事業は、地方公共の秩序維持、住民の安全、健康及び福祉を保持すること等を目的として通常行われる地方公共団体の事務(地方自治法二条)とは基本的に性質を異にしており、これを五箇村の事務と同一視することは到底できない。

したがって、五箇村村長の右措置は地方公務員法三五条に違反する違法な措置というべきである。

(三) 被告らは、本件職員派遣は研修(五箇村の職員の職務に専念する義務の特例に関する条例二条一号、地方公務員法三九条)目的であるとして、その派遣の適法性を主張しているが、前記認定によれば、右職員派遣は、当該派遣先で従事することが予定されている職務の適任者として指名された上での派遣であり、地方公共団体が職員を派遣するには名目が必要なため、研修目的として取り扱われることになったに過ぎず(真に研修目的であれば、研修が必要でそれに適した者を選定する研修者の選定作業が行われ、事前に打ち合わせが行われ研修カリキュラムが作成され、研修中には研修成果を明らかにするために報告書等が作成されているはずであるが、本件においては全証拠によってもそのいずれの事実も認められない。)、本件職員派遣は、研修目的で派遣されたものとはいえないから、被告らの右主張は採用できない。

(四) なお、被告らは、本件において金崎及び滝本のいずれについても、本来五箇村の職員の職務に専念する義務の特例に関する条例及び職務に専念する義務の特例に関する規則により同人らの五箇村職員としての職務専念義務を免除し得る場合であったから本件職員派遣は地方公務員法三五条に違反しないとも主張するが、このような主張は、前記の地方公務員法三五条の趣旨を軽視するもので是認できない。

(五) 以上によれば、本件公金支出は、五箇村村長の違法な職務命令を前提とするものであり、かつ、専ら被告会社らの業務に従事し五箇村の事務を担当しなかった職員に対して人件費を支出したのであるから、地方自治法二〇四条一項、地方公務員法二四条一項等に違反するものであることが明らかである。よって、本件公金支出は地方自治法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう違法な公金の支出に当たる。

二  争点2について

1  金崎に対する人件費の支出について

証拠(乙一三ないし一五、一九、証人富田幹彦、被告池田、被告隠岐振興代表者岡田昌平)及び弁論の全趣旨を総合すると、前記一1(三)(1)に判示のような経過で、斎賀は平成七年四月一日付で派遣期間を平成九年三月三一日までとして、隠岐島町村組合から五箇村に派遣され、同村の事務に従事していたが、その給料等は隠岐島町村組合が支払っていたところ、①五箇村と隠岐島町村組合は、平成七年四月一日付「職員の派遣に伴う人件費に関する覚書」をもって、五箇村が金崎に支払った人件費と、隠岐島町村組合が斎賀に支払った人件費及び五箇村の支払った右人件費に対する第三者からの填補分の合計額とに差額を生じた場合には、五箇村又は隠岐島町村組合はその差額を相手方に(五箇村が金崎に支払った人件費の方が多ければ五箇村に、右合計額の方が多ければ隠岐島町村組合に)支払うこと等を合意したこと、②五箇村が負担した金崎の平成七年度の人件費は八五九万九八八五円、隠岐島町村組合が負担した斎賀の平成七年度の人件費は三六八万四二五六円であって、その差額は四九一万五六二九円であったこと、③五箇村が金崎を隠岐島町村組合に派遣したことにより、島根県から五箇村に平成八年三月に交付される特別交付税は右派遣をしない場合と比較して四〇〇万円加算されることが見込まれたため、五箇村は前記覚書に基づき、平成八年二月二六日、右の人件費差額四九一万五六二九円から加算見込の特別交付税額四〇〇万円を控除した九一万五六二九円を人事交流職員差額人件費負担金として隠岐島町村組合に支払請求し、隠岐島町村組合は、平成八年四月五日、右金額を五箇村に支払ったこと、④ところで、特別交付税(地方交付税法六条の二)とは、都道府県又は市町村における特定の事業や災害等その年の特別の財政需要に対応して交付されるものであり、各市町村に対する交付金額は、各市町村からの交付申請に基づき、県知事が予算の枠内で各事業ごとに金額を査定しそれを積算することにより決定されるものであるところ、島根県は、従前西郷町の被告隠岐振興に対する職員の派遣事業について、同町が派遣職員に支払った人件費のうち年間四〇〇万円相当分を毎年特別交付税として査定してきており、右派遣に引き継いで行われた五箇村による金崎の被告隠岐振興に対する派遣事業についても、平成七年秋ころの五箇村からの交付申請に基づき、同村が金崎に支払った平成七年度の人件費のうち四〇〇万円相当分を特別交付税として査定し、平成八年三月末ころ、これを五箇村に交付したことが認められる。

2  滝本に対する人件費の支出について

証拠(乙一七ないし一九、被告池田)及び弁論の全趣旨を総合すると、五箇村の負担した滝本の人件費九一五万九三〇三円については、五箇村の平成八年三月一三日の定例議会において、被告五箇村総合振興からその全額が返還されるものとする予算が議決され、これに基づき五箇村は同月一九日、被告五箇村総合振興に対して右金員の支払を請求し、同月二八日、その全額が同被告から五箇村に支払われたことが認められる。

3  以上によれば、本件職員派遣及び本件公金支出により五箇村の被った損害は全額回復されたものと認められる。

なお、原告らは、四〇〇万円の特別交付税の交付は損害の填補関係にない旨主張するが、前記認定に照らし採用し得ない。

三  争点3について

被告池田及び被告隠岐振興に対する本件予備的請求は、隠岐島町村組合が金崎の人件費を支出したものであることを前提に、右公金の支出は違法であると主張して、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、同組合管理者たる被告池田と被告隠岐振興に対し、同組合に代位して右人件費相当額の損害の賠償を求めたものである。

ところで、原告らが行った住民監査請求において対象となった財務会計行為は、前記前提事実記載のとおり五箇村による公金支出行為であるのに対し、原告らが本件予備的請求で主張する財務会計行為は、隠岐島町村組合による公金支出行為であって、公金支出の主体である団体も支出権限を有する職員も異なるのであるから、その間に実質的な同一性を認めることはできない。そうすると、原告らが本件予備的請求を提起するには、予め隠岐島町村組合の監査委員に対して同組合の右公金支出行為につき住民監査請求を提起する必要があるところ(地方自治法一九五条、二四二条、二九二条参照)、それを経ていないことになり、本件予備的請求は不適法である。

四  以上のとおり、原告らの被告池田及び被告隠岐振興に対する請求のうち、五箇村に対し連帯して金六八五万七二七一円の支払を求める部分は理由がないから棄却し、隠岐島町村組合に対し連帯して金八五九万九八八五円の支払を求める部分は不適法であるから却下し、原告らの被告池田に対するその余の請求及び被告五箇村総合振興に対する請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・辻川昭、裁判官・遠藤浩太郎、裁判官・次田和明)

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